学術雑誌に投稿された論文は、編集者の第一判断を経て、論文の著者と同じ分野の研究者である査読者の手に渡ります。査読者は、内容を把握し、研究の重要性を鑑みた上で、論文が下記の4つのいずれに該当するか判断します。
(i) Accept as it is(そのまま受理) 修正不要でそのまま掲載可
(ii) Minor revision(要微修正) 少し改訂が必要、査読者の疑問に答える形で微修正
(iii) Major revision(要大幅改訂) 大きな改訂が必要、通常は追加の実験・議論を要する
(iv) Reject(却下) 掲載不可、内容や議論・成果レベルに大きな問題あり
査読者の名前は最後まで著者に明かされませんが、査読者には著者がわかっています。また、査読者は同じ分野の研究者でもあるわけです。したがって、査読において、例えば「○○先生のところの論文だから大きな問題はないだろう」といったバイアスがかかることは十分にありえます。本来はあってはならないのですが、査読者も人間ですから、そのようなポジティブな、あるいはネガティブなバイアスがあって仕方ない面もありますので、それを承知の上で投稿します。
そういった面で、国内・国際学会発表等でどれだけ信用を得てきたか、あるいは、どれだけ国際的に多くの研究者と研究交流をしてきたか、といったところまで、日頃の研究活動が論文掲載の採否に効いてくる可能性を否定できないわけです。
また、査読者からのレポートの文面から、査読者が誰か推測できてしまうこともあります。ネガティブな査読の場合には、今後の論文投稿の際に査読してほしくない人として指定することが賢明かもしれません。
以降の流れは下記のとおりです。
(6)査読結果の集約(査読者→編集者)
査読結果は査読者から編集者に送られ、編集者が各査読者からのレポートを集約します。
(7) 編集者の最終判断
各査読者からのレポートの結論を踏まえた上で、編集者としての最終判断が(i)~(iv)のどれになるか決定します。査読者の間で意見が分かれた場合は、多数決の形で決められることもありますし、編集者が判断を下すこともあります。
(8) 最終判断の連絡(編集者→著者)
最終判断の連絡(Decision Letter)が著者にメールで来ます。編集者としての最終判断とともに、全査読者からのレポートが送られます。このメールを開くのはいつでも緊張の瞬間です。(i) Accept as it is (そのまま受理)であれば万々歳なのですが、ほとんどありません(私は過去に一度だけ)。逆に(iv) Reject(却下)であれば、その時点でゲームオーバーです。
(ii) Minor revision(要微修正)は、軽微な変更を要するということなので、きちんと対応すればほぼ掲載してもらえるという認識で良いかと思います。いちばん多いケースは(iii) Major revision(要大幅改訂)です。すぐに対応・修正可能なことを求めてくる場合もあれば、対応に時間がかかる(例えば、それなりに労力が要る実験を行うなど)ような修正を複数求めてくることもあります。また、指摘が非常に的確なときもあれば、的外れなときもあります。
(9) 論文改訂
最終判断が(i)ならゲームクリア、(iv)ならゲームオーバーですが、(ii)または(iii)の場合は論文の改訂が必要です。いろんなケースがありますが、とにかく大事なのが、「誠意を持って対応している姿勢をきちんと査読者に示す」ことです。
通常、査読者からの指摘は、複数箇条書きで送られてきますが、その1つ1つにどのように対応したか(あるいは対応できない場合は正当な理由を)しっかり説明する必要があります。査読者の気持ちになることが大事です。査読者はボランティアで限られた時間の中で査読してくれていますので、査読者が時間を浪費しないよう、修正箇所をはっきりと明示して査読者が改訂内容をすばやくフォローできるように気を配ることが大切です。
査読者に誠意を示す一方で、もし的外れな指摘を受けたら、きちんと反論することも必要です。研究を全否定するような意見が来たら、持論をしっかりと主張し反対意見に全力で戦う姿勢を見せることも大事です。最終判断を下すのは編集者であり、査読者ではありませんので、編集者に客観的で正当だと見えれば、査読者の指摘に反論することに何の問題もありません。
個人的なケースで最もおもしろかったものは、3人の査読者の意見が全て異なっていたときです。(ii)、(iii)、(iv)がそれぞれ1人ずつでした。(ii)の人は軽微な修正を求めるのみで、(iii)の人は、お褒めの言葉と共に、追加実験を求めてきており、(iv)の人からは研究を全否定するようなレポートが送られていました。
このときは、追加実験も含め(ii)と(iii)の人の指摘にしっかりと対応し、その上で(iv)の人の指摘に徹底反論しました。その後、改訂を経て論文はめでたく受理され、今では被引用数も多い論文となりましたが、もし編集者が(iv)の意見を重視していたらと思うとそら恐ろしいです。
(10)再投稿(著者→編集者)
カバーレター、修正した論文、査読者の指摘への回答文をウェブサイトから再投稿します。
この(10)以降は、前回でお話した(3)編集者の第一判断からまたやり直しです。2回目の査読は、通常は1回目の査読を担当した査読者と同じ人が務めます。ただし修正が軽微な場合、編集者の判断で査読者による査読が省略されることもあります。このサイクルで必要に応じて繰り返し改訂を進め、最終的に編集者から“accept”(受理)のメールをもらえればめでたくゲームクリア、”reject”(却下)のメールを受ければゲームオーバーです。ゲームオーバーの場合は、それまでどんなに投稿手続きで時間がかかっていたとしても、また最初の(1)からやり直しです。
論文が受理された後は、最後に誤字・脱字やレイアウト修正などの最終確認を経て、最終版が確定し、出版されます(まずはオンラインがほとんど)。そして一度出版されてしまうと、第1回で述べたように、修正不可で永久に残ることになります。
IFか優先権か
最後に、論文投稿に関わる重要な日について記します。前述した(2)論文投稿を行った日が「投稿日」であり、これが「誰が最初にやった研究か」(研究の優先権)を示す上で重要な日付になります。また、acceptのメールをもらった日が「受理日」であり、論文が正式に学術的な審査を経て認められたことを示す日付です。それらを経て論文が出版され初めて公開された日が「出版日」であり、論文が広く公になったことを示す日付です。
投稿日が早くてもrejectを食らうと、また最初から改めて投稿し直すことになるので、必然的に投稿日はどんどん遅くなっていってしまいます。場合によっては、そのうち大事な優先権を失うことにもなりかねません。そのような状況に陥るのを危惧して、極めて重要な成果の論文をあえてIFがさほど高くない雑誌(比較的論文がすばやく受理されやすい雑誌)に投稿するといった策に出ることもあります。このあたりのさじ加減は難しいもので、研究者によっていろいろと判断・考え方が分かれるところかと思います。
