技術の分野は、具体的物質を通じて人間の生活に密着しており、抽象的概念を扱う科学とは全く別個の道を歩んできた。「火の発見」(第1の技術の近代化)、「農業の開始」(第2の技術の近代化)、18世紀後半に始まった「産業革命」(第3の技術の近代化)を経てきたことは先に述べた。やがて、人類は科学の知識の技術への応用が非常に有用であることに気づき、「科学の第2の近代化」(電子と核への肉薄)に伴って電子と核の操作を行う「第4の技術の近代化」がもたらされた。技術と科学は二人三脚で歩むようになったのだ。

 現在は物質の技術から情報の技術が主要なターゲットとなっており、情報技術が人間の脳構造を模倣することによって「第5の技術の近代化」である「情報革命」が進みつつあると言える。

第3の技術の近代化:人力から動力へ

 人類は長い間、自然へ働きかけるための労力を、主として人力に頼り、それを補完するものとして家畜の動物力や風力などを利用する時代が続いてきた。17世紀の後半頃から利用されるようになったのがエネルギー源としての石炭で、それを焼き固めてコークスとして火力を上げ、鉱石を溶解させて多量に金属を得ることが可能になった。そして金属を用いた機械の発明によって、人間の重労働を肩代わりすることができるようになったのだ。

 その最高の成果は動力源である蒸気機関の発明で、多数の機械を一斉に動かして大量生産することを可能にした。手工業から家内工業へ、そして工場制工業へと、生産様式が変化してきたのである。石炭の使用という「エネルギー革命」と動力源と生産機械の発明という「機械革命」が結びついて「産業革命」が成し遂げられたのだ。これが17~18世紀のほぼ100年をかけてイギリスで起こったのだが、と同時に資本主義が大きく発達して生産様式と経済体制の結合が確立したのである。

 産業革命は世界各国に伝播していったが、各国の技術的基盤の進展状況と資本の蓄積の差異によってそこには時間差があった。植民地化されたアジア・アフリカの国々では、独立を達成して自立した国となった20世紀後半になってようやく産業革命が始まる、という具合である。長く鎖国を続けた日本の場合、江戸時代は人力が主体で家内工業が産業形態であったが、1868年の明治維新から約50年を経た大正の頃には産業革命が終わったと言われている。これはイギリスの半分の期間ということになるが、いずれにしろ、産業革命が現在の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムを生み出し、環境問題を引き起こした根本原因であることは間違いない。

第4の技術の近代化;電子の量子論的操作

 ニュートン力学はマクロな物質の運動を記述しており、産業革命で開発された機械はその成果に依拠している。20世紀になって、ミクロ世界の電子や核の運動や反応を記述する量子力学によって記述される現象を利用して開発されたのが「第4の技術の近代化」の成果である。その嚆矢は、電気を自由に通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ「半導体」と呼ばれる素子の発明である。通常は絶縁体だが、圧力をかけたり、高温にしたりすることで電気が流れるようになるのだ。

 電気を利用した機械(ラジオ・テレビ・コンピューター・X線発信機など)には、その流れを増幅したり方向を制御したりすることが必要で、それまでは真空管が使われていた。しかし寿命が短いため長時間の運転が不可能であったのが、半導体の固体素子に置き換えることで寿命を劇的に長くすることができたのだ。

 現在では、あらゆる家庭用電気製品に半導体素子が使われており、現在の産業構造を根本から支えていると言っても過言ではない。またコンピューターはオフ(0)とオン(1)の切り換えで情報の操作を行っていることから、これにも半導体は不可欠である。さらにオフとオンの中間状態をコンピューターの計算過程に含めることで、量子論的な不確定な状態を扱う「量子コンピューター」の開発が進められている。これはまさしく電子の量子論的な完全制御をめざした技術であり、その意味では現在はまだ「第4の技術の近代化」の過程にあると言うべきだろう。

第5の技術の近代化:物質の技術から情報の技術へ

 上の「第4の技術の近代化」が徹底されて、情報流通を担うIT技術がいっそう発達し、「第3の科学の近代化」で述べた自己意識をもつ自律したAIが実現すれば、それを利用した「第5の技術の近代化」が展開されることになるだろう。ここに科学と技術が完全に一体化する時代が訪れるのである。しかし、その時には人間という存在はこのまま存続できるかどうか、保証の限りではない。

戦争技術の近代化

 ここまで議論してきた技術は、人間の生活を支える「民生技術」を頭に描いているが、これと対照的なのが人間の生活を破壊するための「軍事技術」である。二つの技術は人間の生活に対して、「生かすか、殺すか」の正反対の目的に対応している。しかし、物質系としては二つの技術は共通しており、使い方次第と言える。これを「デュアルユース(軍民両用)」という。包丁が食べ物を料理するために便利な道具であるとともに、人を刺し殺す武器にもなるように、一つの技術が二通りに使えるのである。

 このことは昔から気づかれてきたが、最近になって特に強調されるようになった。軍が技術者を軍事研究に動員するため、「民生技術の開発のためとして金を出し、その成果を軍事技術に応用する」という方策を採用するようになったからだ。そのような技術のデュアル性(両用性)を頭において、軍事技術の近代化の足跡を最後にたどってみよう。

第1の軍事技術の近代化:人力から火薬の力へ

 人類が発明した最初の武器は、石器・青銅器・鉄器などを使った刀や槍や弓などで、より殺傷力が大きい材質に変わってはきたが、基本は人力で操作するものであった。紀元12世紀頃、中国で火薬(硝石と硫黄と木炭などの混合物である黒色火薬)が発明され、矢の末端部において火薬を爆発させて、その圧力で矢を飛ばす工夫(「飛矢」とか「火箭」と呼ばれた)がなされた。それが「第1の軍事技術の近代化」であり、火薬という化学エネルギーを利用することで、離れた場所にいる人間を飛び道具で殺傷する技術の発展である。やがて、武器の飛翔距離や速度や命中精度を高めるために、矢を弾丸に替えて鉄砲・機関銃・大砲が生み出された。

 近代には、火薬の爆発力の増加からロケット弾やミサイルなどの飛翔体を飛ばすようにして、より殺傷力の大きな武器へと展開してきた。原理は火薬の爆発力を一方向に集束・集中させて弾丸や飛翔体を高速度で発射するというもので、力学で言えば作用・反作用の法則の利用である。火薬として化学薬品のニトログリセリン(それを高度化したダイナマイト)が使われるようになって、爆発エネルギーが一気に増大した。現在でも兵器の主力を担っている。

第2の軍事技術の近代化

 言うまでもなく、火薬の爆発力より10万倍も大きなエネルギー放出が起こる連鎖的核分裂反応(第2回参照)を利用した原爆、そして原爆の爆発力で超高温状態を実現して重水素の核融合反応を利用した水爆の発明が、「第2の軍事技術の近代化」である。原爆は第二次世界大戦において広島・長崎に投下され、十万人を遥かに越える人々を殺傷した。水爆は原爆の100~1000倍の爆発力があり、100万人を越す大都会を一瞬のうちに壊滅させることができ、現時点ではまだ地球上で使われていない。余りに被害が大きいためだろう。

 原爆・水爆の核兵器の保有国は現在9カ国(米・露・英・仏・中・印・パ・イスラエル・北朝鮮)だが、巨大な殺傷力を背景に(脅迫に使って)敵の攻撃を押し止める「核抑止力」として使っているのが実情である。火薬に比べて格段に大きい殺傷力であり、世界戦争が起こって使われれば、地球上のすべての生命の存続にとって脅威となる。

第3の軍事技術の近代化

 AI技術の発達によって、自己意識をもち人間の殺傷を自らの判断で決定するキラーロボットのような自律型AIT兵器の登場が「第3の軍事技術の近代化」であろう。現在は、人間のコントロールが効かない自律ロボットの登場が心配される状況で、もし実現すれば、キラーロボットによる際限のない人間の殺傷が生じ、地球における人類の絶滅に直結するのではないだろうか。  

「第3の科学の近代化」、「第5の技術の近代化」そして「第3の軍事技術の近代化」、いずれもITの発達が背景となった「自律型AI」の出現が鍵を握っている。はたして、これは実現するのであろうか?